音楽と美術2005年01月25日 01:39

音楽を生業とする人を、「アーティスト」と言うようになってきた。
日本において「アーティスト」は「芸術家」と訳されるだろう。語から言うと、「職人」というニュアンスも求められなくもないだろうが、そう言う意味合いでつかわれることはほぼないだろう。今までは主に美術家に対して用いられてきた呼称のような気がする。


主にクラシックの世界では、誰かの作曲した音楽を、楽譜を元に演奏するひとが、作曲家よりずっと多い。選曲や、楽曲の解釈にも作家性があるのだから、「アーティスト」と、言って良いような気もするが、ことさらそう言うことは少ないだろう。
そういう専門家の演奏を聴くほかに、作曲家のつくった曲を享受するには、楽譜を手に入れそれを演奏して楽しむという方法がある。美術においてはそのように積極的に作品を享受するシステムは少ない。
美術においては楽譜のような物をつくり、それを再現するようなシステムは少ない。ほとんどない。作家がただひとつの作品を作り、作品は作家と密接に結びついている。そういうかたちを「アーティスト」と言いやすいかもしれない。
「アーティスト」という呼称を好みはじめたのはポピュラー音楽の世界だ。商業音楽の世界のミュージシャンに、楽譜を演奏する演奏家よりも、作家がただひとつの作品をつくるという性格が強まった。作った曲を歌い、演奏するのはその音楽家、または決まった作曲家とミュージシャンのグループと言える。そうして作家と表現の結びつきが深くなった点で、美術に近づいたといえるかもしれない。
それでもやはり、楽譜を手に入れ演奏を楽しむということは可能だ。また、「カラオケ」というものは、それに近い作品の享受の仕方だ。

商業音楽で「アーティスト」ということばが広まっているというのは奇妙なことのようだが、フォークやロックのミュージシャンは詩人でもあり、クラシックの音楽家よりもある意味で表現者的な性格が強まっている。ここで、ポピュラー音楽では様式の硬直化がクラシックや他の様々な音楽より顕著だということは別の問題だ。「アーティスト」的性格の強い音楽家の作品が、商業的発想がほぼ欠如していてもより商業的に成功する可能性があるという一見矛盾した状況も可能であり、実際にそう言う現象はいくつも出現しているはずだ。これは、その「アーティスト」が、商業的成功を望んでいるかいないかということとは特に関係がない。

「複製技術時代の芸術」のうち、ありかたを劇的に多様化させた物のひとつは音楽のようだ。
上で「別の問題」としたが、商業音楽の世界の音楽には高度な内容をもった表現的な性格が強いものも、商品として消費されるためにつくられる性格が強いものも、多くはメロディーと和音、リズムのパターンがほぼ同じといえるのは興味深い。古典派の機能和声の要素が強い物がほとんどだろう。かろうじてドビュッシーまでの成果は消費されつづけているかもしれないが、それ以降のクラシック音楽の成果は、それを使うために使われることがほとんどで、それすらすくないだろう。
美術では様式の変化がめまぐるしく、かつてなかった奇妙なありかたが主流とさえ言えるかもしれない。何かに似ているということで、顧みられることが少なくなるかもしれない。商業的ベースに乗りやすい美術作品はそうとは限らないが、音楽に比べると、豊かな内容の物は、はるかに少ない。
デザイン等の「商業美術」に話を広げた方がいいだろうか。グラフィック・デザインには作家性のつよいものが多いとは言えないにしろ、ないわけではない。しかし、デザインは作品として美術的技能を使った仕事だけが自立して成立するものではなく、創造的な要素は副次的な役割にとどまる。
芸術的要素の強い美術作品を供給するグループは、相変わらず画廊や美術館を中心としたコミュニティを中心に外の世界を呼び込もうとしている。「複製技術時代」において、どちらかというと「複製技術」と対立することで命脈を保ち続けている。そのことの是非は問わない。
「複製技術」が「マス・コミュニティ」と関わって芸術的要素の強い美術に大きく関わってくるのはインターネット時代のこれからだろうか。音楽と違うのは商業的要素が逆に弱まることだ。これからは音楽もマス表現でありながらインターネットとの関わりでは商業的性格を弱める可能性をはらんでいるが。

美術の「アーティスト」は、音楽の「アーティスト」などを横目に見ながら、何をしようか考えるのだろうか。音楽の状況のほうが理想的だと思うことはないだろうか。そのことはどう現れてくるのか。

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